『江戸っ子繁盛記』は中村錦之助の正真正銘のスター映画。全編これ、中村錦之助の魅力満載の映画。
彼が二役を演じる必然性がどこにもないところが凄い。何故に中村錦之助は
ひとり二役なのか。何故なら彼はスターだから、としか答えられまい。
ちゃきちゃきの江戸っ子庶民の中村錦之助と、旗本役のりりしい中村錦之助の両方が
ひとつの映画で楽しめる。一粒で二度美味しい実にお得な組み合わせ。
でも庶民と旗本役の二人の中村錦之助がひとつのフレームに収まるとき、吹き替えの人の顔が
バレないか、私は観ていてハラハラした。が、代役の顔は上手く影に隠れていて見えない
ようになっているんだな。
江戸っ子の中村錦之助が旗本に妹を殺されたことを知る場面。彼は怠け癖を直すために
酒を断っていた。失意の彼に周囲に「呑みねぇ、呑みねぇ」と勧められるとき、果たして
中村錦之助はお酒を飲むのか?飲まないのか?という一点でサスペンスの高みに達してゆくのが
素晴らしい。血が流れる場面でもないのにドキドキさせられた。
江戸の町が火事になる場面、それとラストの中村錦之助の立ち回りの場面が大掛かりで凄い。
引きの絵になったときのセットの豪華さといいエキストラの数といい、当時の東映時代劇の底力
の凄さをうかがい知れる。東映時代劇は何とまあ映画の贅沢品だったことでしょうか。