
シネ・ヌーヴォで『徳川いれずみ師・責め地獄』を最後尾のパイプ椅子席で観ていたら、私の右隣に吉田輝雄さんが座る。その場に居たごく数名の者は気が付き、色めき立つ。
ずんぐりとした大きな身体を折り曲げて、足を窮屈そうに組んで、パイプ椅子に座っている。ちょっと御気の毒。彼の醸し出す存在感はマフィアの大物のようにも思えてくる。もしもゴダールやスピルバーグが隣に来たら、そりゃ私もビビるけど、吉田輝雄なら親しみが湧くので大丈夫。平然と構えておこう。
あぁ握手しに行きたい。サインねだりたい。ツーショットで写真に収まりたい。
でもね、いかにも「お忍びで来ました」という雰囲気だったので、そっとしておいた方が良いと思いました。
なんせ、吉田輝雄様はかつての大スターですからね。『秋刀魚の味』で佐田啓二にゴルフクラブを勧めていたくらいの人ですからね。
『女体渦巻島』のポスターによると
<全女性あこがれのハンサム吉田輝雄の魅力>、『黄線地帯』のポスターによると
<人気爆発のトップスター吉田輝雄の魅力>とか書いてあるくらいですよ。
もし吉田輝雄が劇場に来ている、なんて知れたら、場内がパニックになるじゃないですか。ここはひとつ、気がづいていないふりを押し通そう、と私は心に決めた。
そして上映終了後、静かにひっそりと「サイン下さい」と言いに行こう。
ドキドキワクワク・・・、としていたら上映中に(ラストまで15分というところ)、退場されて、お帰りになったのでした。残念!!。やっぱりスターだもんね。しょうがないか。
『徳川いれずみ師・責め地獄』は素晴らしい映画でした。かなりのインパクトを私の心に残しました。アクション良し、テンポ良し。石井輝男の映画を色眼鏡で見てはいけないと思いました。タイトルバックで、のこぎりで首をギコギコしたり、ラストの股裂きの刑にはちょっと驚きましたけど。
片山由美子(由美)は、あんな鉄製の貞操帯を付けられて、普段、どうやってオシッコするのかしらね。